情けない。
俺は、情けない。
あんな場所で、マジックの愛撫を想像してしまった自分が、情けない。
全部、あいつのせいにできれば、楽なのに。
シンタローは、明らかに、あの場に、あの状況に、興奮してしまっていた自分を認めざるを得なかった。
俺はいつの間にこんなに情けない身体に、作り変えられてしまったんだろうと、睫を伏せる。
恥ずかしい。こんなの、俺じゃない。そう思うのに。
だけど、疼く。
情けないと思うのに、欲しくてたまらなくなる。
熱が。もどかしいこの熱が。全身の肌を欲望に焼くような、この熱が。
俺……俺……
何とか総帥訓示を終えた後。裏手に回って。
シンタローは一目散にトイレに駆け込み、個室に入る。
幸い、どこも無人のようだ。
静けさが漂っている。
そこで、冷たいタイルの床に座り込んで、シンタローは息をつくと。
「……っ」
おそるおそる。
軍服の上から、自分の股間に、そっと手をやった。
触れると、そこが震えているのが解って、その熱さと感触に、シンタローは背中をのけぞらせる。
じわり、じわりと明確な快感が形となり、自分を捕らえていくのがわかる。
置いた右手は、その場所に吸い付くようで離すことができない。
シンタローは空いた左手を、さらに脚の深い狭間に滑らせると。
その奥への入り口に、触れてみた。
ひくりと、そこが蠢いた。
衣服の上から触れただけでも、その場所は鋭敏だった。
「ん……っ……ああっ」
思わず声をあげてしまい、シンタローは慌てて個室の外を窺った。
大丈夫だ。依然として誰も入ってくる気配はない。
ここは上級士官専用階であり、ここを使用する可能性のある者たちも、総帥訓示の後しばらくは、なにがしかの儀式に手をとられているはずだった。
今なら。今なら、大丈夫だ。誰にも気取られる心配はない。
「……ん」
ずっと、この中途半端な状態で、我慢していたのだ。
もう、限界だった。
前も、後ろも。
自分の手でもいいから。触れられたくって、我慢できない……
快楽の予感に痺れて上手く動かない指ももどかしく、何度も爪を滑らしながらも、シンタローは軍服の革ベルトを緩め、下半身のジッパーに手をかける。
しかし、噛んでしまって、なかなか下ろすことができなかった。
こんな時に。
シンタローがしばらく悪戦苦闘していると。
「お困りですか?」
そんな声が、至近距離からかかった。
「お困りですか? なんなら、お手伝いしましょうか?」
シンタローはビクッとして、キョロキョロ辺りを見回す。
しかしこの狭い個室には、他には誰もいない。俺しか。当たり前だ。
それでも声は、続いている。
やけに親切そう。くだけてそう。馴れ馴れしそう。
「慌てると、下ろすの大変ですよね、ジッパーって。あるある。よくあることですから、心配しないで!」
嫌な予感がして、シンタローは首を僅かに傾け、横目で声のする方に目をやった。
そこには、トイレが。
真っ白の西洋式便器が。話しかけてきているのだった……
「ッ!!!」
ザッ! とシンタローは立ち上がると。
バタン! と扉を開け、スタスタスタスタ! と後も振り向かずに個室を立ち去った。
背後からは嘆くような機械音が響き渡っている。
「あああっ! もう行かれてしまうのですね! こんな時、キンタローさんなら熱心に私とお喋りを……」
グンマの改造した、人工知能付きその他色々付きトイレに違いないと、シンタローは呆然として考えた。
そういえば、このトイレ。
この前、俺、ここでもマジックに襲われたっけと、シンタローは記憶を辿る。
その時に眼魔砲を撃った際、この場所を破壊したような覚えがある。
自分が破壊した場所を、意気揚々としてグンマが余計な機能をつけた上で、ロボ化しているのは知っていたが。
「……」
シンタローは、今この瞬間に初めて、眼魔砲でマジックを撃退するのも考えものだぞと、自分を省みてちょっぴり反省したのだった。
「大丈夫か、シンタロー!」
トイレを出たシンタローを見つけて、キンタローが駆け寄ってきた。
「……」
不甲斐ない、とシンタローは感じた。
俺。総帥訓示、上手くできたんだろうか。それさえも掴めないとは。総帥として。総帥の責務として。
しかし。
「よくやった! 凄いぞ、シンタロー! どうやら訓示は大成功だ!」
「は?」
キンタローに、ぽんと背中を叩かれた。
目を丸くしたシンタローに、たたた、と廊下の向こうからグンマが駆けて来る。
何やら資料の束を抱えているようだ。
「すっごぉい
シンちゃんっ! あのねぇ〜、今、緊急に団員アンケート取ったんだけど、忠誠心がうなぎ上りだよぉっ! まだデータ分析してないけどぉ、ええと備考を一部抜粋。『シンタロー総帥萌え』『シンタロー総帥が色っぽくてますますガンマ団が好きになりました』『総帥をあんな顔させるヤツを生かしちゃおかねえ!』『シンタロー総帥最高! カワイイ!』『総帥って、受けだったんですかネコだったんですか! 目覚めました!』……」
「なっなんだそりゃあっ!」
「このように忠誠心がMAXまで上がると、団員の戦闘力up! 防御力up! 経験値二倍! この他にも様々なボーナスポイントがつく! 訓示がここまでのパワーを持つとは! 流石だな、シンタロー! ガンマ団の未来は明るいぞ!」
そしてそして。
今日もヤクザなヤンキーの方々へのお仕置き依頼が、一件入っていたのである。
「く……う……」
これが終われば、今日一日の業務は終わりである。
飛空艦の艦橋で、シンタローは苦虫を噛み潰したような顔で、立っている。
窓から雲の波を見る。敵国上空。ああ、早く帰りたい。
なんて辛い一日。
これも全て全て。あいつが。あいつが、俺に、変なことを。
う……クッソぉ、ああ〜、もう信じられねェ! 信じられねェ〜〜〜〜!!
同じお仕置きならアイツをお仕置きしたい、お仕置きしたい、お仕置きしたいッッ!!!
……仕返しさえ、されなければ……
そうこうしている間に、ウイーン、という機械音と共にハッチが開く。
シンタローの眼前には、お仕置き対象の不幸な国が広がっていた。
「……ぐ」
シンタローは大きく息を吸うと。
――これが終われば。今日は終わり。この苦痛の時間も終わり……
「くぅ〜〜〜〜〜〜」
一切合財の怨念を、右腕に込め、青い光にそれを託す。
「眼魔砲ォォォッッッッ!!!! オラアァァァッッ!!!! 吹っ飛べェェェ――――――ッッッ!!!」
ここ最近では最大出力の眼魔砲が、その手から放たれた。
ちゅどーん! ごがーん! がしゃーん!
大爆発が起こるも、さらに手を休めず次々と猛攻をしかけるシンタローであった。
キンタローが腕組みをして感心している。
「うむ! 今日のシンタローは気合が違うな! 良いことだ!」
「うおおおおおおおおおッッッ!!! くっそぉ! 正義の鉄槌を喰らいやがれえぇぇ――――ッッッ!!! お仕置きだァァァ――――ッッッ!!!」
やつあたりパワーで増大された眼魔砲の威力は絶大。
あっという間に、悪者たちはお仕置きされてしまったのであった。
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バタン、と自室の扉を開けると。
そこにはマジックがいた。
半ば予期してはいたものの、シンタローはお約束通りに腹を立て、ギンと相手を睨む。
「なっ……!」
「だって。シンちゃんがパパの部屋、壊しちゃったから。今日はここにいるよ。いいでしょ……? はは、ベッド壊れちゃったって言ってたのは、嘘だったんだね」
「ぐ……」
一瞬言葉に詰まったシンタローは、それでも俺は被害者だと思い直し、今日一日の積もり積もった怒りを奮い起こし、ダンダンと大きな音を立てて、自室に入る。
勝手に人の部屋のソファに悠然と座って、読書をしていたらしい男の前に、立ちはだかる。
「きょっ、今日! 俺はッ! ア、アンタのお陰で……」
そう、文句をまくし立てようとしたのだが。
「お陰で、何……?」
「!」
相手がニヤリと笑って、立ち上がるのが見えた。
「凄いね。その潤んだ瞳。紅潮した頬。濡れた表情。ぞくっとしたよ。今日一日、お前はそんな顔でいたのかい? これは想像以上だ」
揶揄するような相手の台詞に、シンタローの顔が、ますます朱に染まる。
相手の細められた目が自分を見下ろしてきて、それを見上げると、そこには微妙な色があるような気がした。
マジックは、薄い唇から赤い舌を覗かせて、舌なめずりをするようにシンタローの全身を眺めている。
その視線を感じると、いたたまれなかった。
身体の奥が……ひくひくと蠢いた。
「……今日、そんな顔で、団員の前で訓示したんだって? 凄いな。団員たちはきっとたまらないね。私も失敗したかな。勿体無い。お前のこんな顔を見た奴らを、皆殺しにしても構わないと、今、私が思っているとしたら。お前は怒るんだろうね」
「だっ! あああアンタのせいじゃないかよっ! 全部! ぜーんぶっ!」
そう、目の前に立つ相手に、掴みかからんばかりの勢いで言ってから。
シンタローは、マジックの瞳に浮かぶ目の色を、理解した。
嫉妬だ。
これは嫉妬……こいつ、自分でお膳立てしておきながら。嫉妬していやがる。
馬鹿だ。大馬鹿だ。なんで。なんで、こんな……
「嫉妬は楽しいよ」
シンタローの考えを読み取ったのか、機先を制してマジックは歪んだような笑みを、唇に浮かべた。
「嫉妬は楽しいよ……お前をこんなにも独占したいのに、雑魚の前に、そんな状態のお前を放り出すのも、楽しいものさ。私のお前が、たくさんの無能な狼の視線に、晒されていることを想像すると、私の無感動に慣れた胸が高鳴る。奪われれば絶対に相手もお前も殺すけれど、奪われるかもしれないと、その刃の感覚が、私は好きなのさ」
「ア、アホだ! アンタ、アホだろっ! お、俺を玩具に……おもちゃにしやがって……」
怒りばかりか、悲しみさえ込み上げてきて。
シンタローは、依然として身の内に燃える熱と戦いながらも、悔しさに唇を噛み締める。
そして思う。
俺は結局、遊ばれてるだけなのかもしれない。
こいつのおかしな恋愛ゴッコの都合のいい駒として、好き勝手されてるだけなのかもしれない。
こんな奴の言うことを気にして、秘密特訓してた俺って。
本当に、馬鹿だ。
「あ、それとね……パパ、素敵なもの見つけちゃった」
表情を曇らせるシンタローの前から、マジックが、つと歩いて。
部屋隅の備え付けの冷蔵庫の上段を、勢い良く開けた。
ばらばらばらっと、カラフルなアイスキャンディーたちが、雪崩落ちてくる。
「ゲッ!」
「馬鹿な子だな。こんなちっぽけなアイスキャンディーなんかで、パパのを練習できる訳がないでしょ」
床に落ちて山になった内の一本を、マジックは抜き出すと。
くすくす笑いながら、検分するようにキャンディーの袋を眺めている。
……秘密を見られてしまった。秘密特訓がバレてしまった。
そうシンタローは、逃げ出したい衝動に駆られたが。
誤魔化す手もあるじゃないかと遅まきながら気付いて。
「や、違うって! 急に冷たいもの食いたくなってよ! ついつい買い込んじまって!」
そう言い逃れようとしたのだが。
「じゃあ、これは?」
「ゲゲッ!」
ベッドの下に隠しておいた、返却期限一週間のアダルトビデオが、カードが、レシートが、エロ本が、いつの間にかマジックの手に。
「なになに。『おしゃぶ」
「よっ読むなぁ〜〜〜ッッ!!! その文字読むなぁっ!!!」
「おっと」
思わずその証拠物件を奪い返そうと、マジックの手に飛びついたシンタローだが、あっさりとかわされてしまった。
恨めしげに睨み付けるが、相手は人差し指を立てて揺らし、探偵気取りで微笑んだ。
「ふふ……それにね。すでにグンちゃんやキンタローその他からの証言は入手済みだよ。まったくあの子たちは、お前が大好きだから、心配して何でも喋ってくれちゃって。状況証拠は固まっている。なんだか証言を繋ぎ合わせると、何かの練習をしていたみたいに、パパには思えるなぁ?」
「ぐ……」
意地悪。
目を白黒させて、シンタローが羞恥に打ち震えていると。
マジックは、長い指でシンタローの顎を撫でた。
「……っ」
シンタローは、思わず黒い睫を閉じて、ぎゅっと目を瞑る。
触れられると。
今日一日を悩まされ続けていた最奥の熱が、またぞろりと首をもたげるのが感じられた。
マジックは、うっすらと笑い、愛おしむように指でシンタローの形のいい輪郭を辿り、その悔しさに噛み締めた唇をつついてから。
シンタローの耳を誘うように噛んで、甘い低音を響かせた。
「お馬鹿さんだね……パパのは、パパのでしか練習できないよ……?」
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「あっ……く……」
「ここ、熱いね、シンちゃん。可哀想に。ちゃんと我慢できた?」
後ろからの男の囁きを、シンタローは悔しげに聞いている。
抵抗しつつも結局は押し倒されたベッドの上で、両の腕を背後で拘束されながら。
シンタローの熱く疼くその脚の間、腰に息づく高ぶりが、軍服の上からゆっくりと撫で回されている。
すうっと布の滑る音と、シンタローの脳内を支配する相手の指の感触が、煩かった。
「……ッ……」
指は、いつしか一点で止まり、ぐりぐりと意地悪くシンタローの性器の先端を、刺激した。
着たままの軍服の粗い生地と、すでに濡れそぼった下着の粘ついた感触が入り混じり、複雑な快感がそこに生まれている。
シンタローは脚を突っ張らせ、顔を背けて耐える。
その場所は、すでに衣服の上からでもそれとわかる程に、屹立していた。
痛い程に。
マジックはその場所を弄くりながら、背後からシンタローの耳に唇を寄せ、全てを見透かしたようにこう言ってくる。
「シンちゃん……ここね。随分感じちゃってるようだけれどね。もしかしたら昼間、一人で出しちゃったりしたのかな。清廉なお前の仕事の合間に、いやらしく。ここ、自分で弄っちゃった? 自分で弄って、腰振って、一生懸命擦っちゃったのかな……」
「やっ……」
答えようとしたのに、相手は前を弄る指を、今度はシンタローの後ろに滑らせてくる。
シンタローの全身は、緊張のあまりビクリと波打った。
「きっとその内、お前の身体は、こっちの後ろのお口も震えてきたよね。欲しがって、ぱくぱくと口を開いてくる。貪欲にね。こっち、後ろも弄った? 後ろのお口に、自分で指入れちゃって、出したり抜いたり楽しんだのかな。でもお前の指じゃあ、一番奥に届かなくって、苦しい思いをしたんじゃないかな。どう、パパに教えて」
「くっ……ンなの、してねーっ」
これは本当のことだから、シンタローは大声で叫んだ。
自分は、色々あったが結局は我慢したのだ。
辛かった。その辛さを、多少なりともわかって欲しかったのに。
「どうかな……ああでも我慢したんだとしたら、今から、いっそう楽しくなるなぁ……我慢強いシンちゃんは、大好きだよ」
相手は鬱蒼と笑うと、シンタローの耳を、強く噛んだ。
噛んだ後、それがまるで嘘のように優しく、優しく同じ場所を舐めてくる。
「……う」
鳴りそうになる喉を、必死で抑えているシンタローの耳に。
舌の水音と一緒に『シンちゃんは、我慢が上手なんだよね……それじゃあ、もう一回パパの前で、その我慢……見せてね』と、そんな悪戯っぽい台詞が、響いた。
両腕は、背後でそのまま後ろ手に縛られて、自由に動かすことができない。
下半身は強引に剥がれて、その場所はマジックの前で曝け出されていた。
脚が広げられている。日に焼けずに意外と白く誘うような、太腿。
依然として着せられたままの上半身、赤い軍服が、灯りの中で目に眩しい。
ああ、この小さなお口は、と、マジックはシンタローの割った脚の間に入り込み、目を細めて呟いている。
指の腹で、そっとそこをなぞる。
「少し腫れてるね。ぷっくりとしてるよ。辛かった……? それとも、気持ちよかったのかな。あの状況を、お前は楽しんでいたんじゃなかったろうね? ここは、答えてくれるかな……」
「〜〜ッ」
マジックは、指先での悪戯をやめ、シンタローの両脚を抱えると、それを折り曲げてぴったりシンタローの胸につけてしまう。
そして、その微かに腫れて、普段の桃色が赤みを帯びているその場所に、恭しげに口付ける。
ちゅ、と音がした。
シンタローは羞恥に、泣きそうになる。
しかし同時に、その場所に篭った熱が、何かを期待してより一層激しくざわめきだすのを、感じている。
「……っ」
ちゅ、ちゅ、ちゅ、と音は続き、柔らかい唇と舌先だけが、じらすように自分の敏感な部分に触れていくのがもどかしく、シンタローは、『自分でしてしまわないように』と縛られてしまった背後の腕を、悲しげにもぞもぞと擦り合わせた。
恥ずかしかった。
でもその反面、この熱を、今日一日耐えてきた熱を、外に出したいという気持ちも込み上げてきて、もうたまらないのだ。
熱は、シンタローの内部で荒れ狂い、その出口に口付けられて、早く、早く、と悶えていた。
その場所を、早く開いて欲しい。
羞恥心と欲望の狭間で、もうどうしようもなくて。
シンタローは、掠れた溜息のような声を漏らす。
「ふっ……う…………んんっ、ン……」
その時、コンコン、と部屋の扉をノックする音が聞こえた。
この部屋の粘ついた空気と、かけ離れた明るい声。
「シンちゃぁ〜ん。お夕飯できてるよぉ」
「!」
グンマだ、とシンタローは身をこわばらせた。
今さらのように自らの淫らな格好が意識され、情けなさに顔をしかめる。
こんな姿を。見られたら。
「シンちゃーん、大丈夫〜? やっぱり気分悪いの? それとももう寝ちゃったのかなぁ〜」
扉の外で、相談するような声が聞こえる。
従兄弟二人が、扉一枚隔てた空間に、いるのだ。
それなのに俺は、こんなあられもない姿を。
シンタローが目を伏せると。
愛撫を止めたマジックが、静かに立ち上がった。
扉に向かって、歩き出す。
薄く扉を開け、『シンタローは気分が悪いそうだよ。だから夕食はいい。私が何か食べさせておくよ。先にテーブルについておいで。私はここを見てから、すぐに行くから』などと、勝手に二人を階下の食堂に返してしまうマジック。
「……っ」
シンタローは何食わぬ顔で自分の方に戻ってくる男を、恨めしげに見上げた。
すべての元凶。
俺の苦しみの、最初から最後まで、すべての元凶……
しかし、その青い目と視線が合って、自分の睫が震える。
背筋が、ぞくりとした。
「さてと。それじゃあ、私もシンちゃんの夕食の準備をしようかな」
そう、冗談めかして相手は言ったので、シンタローは何を言いやがる、勝手に決めんな、と低く唸った。
「ふざけんな!」
「ふざけてなんかないよ。私はいつでも本気だよ? さあて、シンちゃん。お行儀よく、いただきます、してごらん。まあお菓子だけれどね。こんなものが夕食っていうのは身体に悪いけれど、たまにはいいだろう。今日は特別だよ」
「は? いい加減に……ッ…………? ふ、ふぁ……なっ! なっ、ば、ばかやろ……あ、あ、ああああっっ……!!!」
シンタローの広げられた脚の間には、白いアイスキャンディーが差し込まれていた。
小さなその場所が、半ばまで、それを飲み込んでいる。
無理矢理突っ込まれて、その場所は悲鳴をあげるように引きつり、痛みさえ訴えている。
ぐいぐいと押し込む力は強い。マジックの手。
その冷たさ、硬さと柔らかさ、淫靡さに、シンタローは気が遠くなりそうになった。
熱い、冷たい。熱い、冷たいと、飛びそうな意識の中で繰り返している。
「冷たいもの食べたくなったって、さっきシンちゃん、自分で言ってたじゃない。熱がってるから、ちょうどいいよね」
そんなシンタローを冷然と見下ろし、マジックは微笑んでいる。
そして容赦なく、そのキャンディーを根元まで、シンタローの中に押し込んだ。
強烈な衝撃が、シンタローの中心を貫いた。
「ひゃっ! あ、ああっ! や、やめ……やめてっ……やだっ、やだっ!」
「どうして。お前はこれを私に隠れて買い込むぐらいに、これが大好きでしょ。折角、こうやってパパが食べさせてあげるてるのに。そうだよね。シンちゃんは小さい頃、ご飯が食べられなくなるからやめなさいって、いつも言ってるのに、アイスキャンディーが大好きで。いつも、食べちゃダメって言うと、ムッとしてたっけね。だからね……」
「やっ……あ……ううっ…………ん、んんっ! や、やだ……う、動かさない……で……」
「今はね、大人になったから。好きなだけ、食べていいよ。許してあげる。アイスキャンディー。おあがり」
ふふ、と笑い声をたててマジックは、アイスキャンディーを激しく抜き差しし始めた。
シンタローは、ああ、と身を捩じらせ、いやいやと無力に首を振った。
じゅっ、じゅっと音がして、氷が自分の内壁をいたぶっていく。
氷が溶けて、とろりとした粘つく白い液体が、太腿を伝っていく肌触り。
嫌だ。熱い。冷たい。苦しい……
「……ッ! ああ……んっ! ん、んっ!」
ぐいっと、感じる場所をわざと突かれて。
シンタローはその経験したことのない感触に、喉を喘がせ、背中をのけぞらせる。
「ああ、凄いね。お前の中は、とても熱いから。どんどんと溶けていくよ。キャンディーが細くなっていく……本当に食べるの、大好きなんだね。もうこんなに」
「はぅ……う、んっ……ん、くっ……」
熱が篭っていた場所を、冷たい氷の棒が犯していく。
変だった。
どうしてだろうと、シンタローはマジックの手の動きに翻弄されながらも感じている。
熱は、氷に触れれば冷えていくはずであるのに。
身の内に燃える熱は、これまで以上に激しくのた打ち回り、シンタローの芯を燃え上がらせ、蕩けさせていく。
これは、最奥に塗られたもののせいなんだと、シンタローは信じようとする。
「はい。もう食べちゃったね。早いな……それじゃあ二本目。今度は苺味かな」
ぽいっと、溶けきって木の棒だけになったキャンディの残骸を、マジックは投げ捨てている。
シンタローは、急に楽になった感覚に、はあはあと息をつく。
しかし、マジックは。
すぐに、二本目、と口にした通りに、新しいそれのけばけばしい袋を破ると。
躊躇せずに、今度はピンク色をした氷の棒で、シンタローの最奥を貫いてしまう。
ズ……! と再び衝撃が、シンタローを包み、喘がせる。
「うあ、ああっ……やめ……やめて……っ」
「嘘ばっかり。おいしそうに食べてるよ? ピンクの棒を、ピンクのお口が、一生懸命、咥えてる。食べ方は、おしゃぶりはやっぱり下手で、とろとろ液を一杯こぼしちゃってるけれどね……それがまた、いやらしいね」
先程の白い液体に、桜色の液体が混じり、甘い香りが部屋中に漂う。
シンタローは新しい氷の棒の質感に、身も世もなく鳴き声をあげた。
「あ、ああああっ……!」
「嫌がるのに、感じてるんだから。本当にお前は始末の悪い子だねえ」
そう言ってマジックは、未だ上半身は着せられたままの軍服の上から、シンタローの立ち上がりきった乳首を、的確に摘まみあげると。
アイスキャンディーを、ゆうるりと円を描くように、シンタローの中で回し出す。
激しく突き刺され抜かれる縦の直線的な動きから、やわらかい変則的な動きに変えられて。
「あっ……ん……」
たちまちシンタローは甘い声をあげ、たまらず屹立する性器の先端から、透明な涙を流してしまう。
今度は、異様な程に、気持ち良かった。
それは快感だと、認めざるを得ない。冷たいそれが、自分の内襞をゆっくりと撫でていく。
触られてもいないのに、中心から先走りの液をだらだらと垂らしてしまう、それは屈辱だったが、そう感じる暇もない程に、シンタローは足先を突っ張らせる。
そして無我夢中で、自分の内部をなぞるキャンディを、ぎゅっと締め付けた。
「おっと」
マジックが、呆れた声が聞こえた。
シンタローのぼやけた目に、マジックは形の良い眉をひそめる様子が、映った。
ただ、荒い息をつく自分。こんな酷いことをされているのに。どうして。俺は。こんな奴の、思うがままなんて。なんで。何故。
「駄目な子だな。噛んじゃって。ほら、崩れちゃったじゃないか」
そう不満そうに、彼はシンタローの目の前に、氷の部分が崩れて木の棒だけになったキャンディを、ちらつかせる。
砕けた色氷のかけらが、シーツに散らばっていた。
シンタローはぼんやりと、それを見ている。
しかし、また声が。聞こえた。
「締め付けすぎはいけないよ……さあて、そろそろパパは、食堂で自分の食事をしに行かなきゃならないから……」
「いっ……ああっ……!」
マジックは、あっという間に、先程シンタローの上半身から抜いた黒革のベルトで、シンタローの首を巻いた。
そしてその両端を、ベッドの端に器用に引っ掛けてしまう。シンタローの長い黒髪もその時一緒に巻き込んで、複雑な結び目を作ってしまった。
この結び方、首の絞め方はと、シンタローは苦しい息を吐いた。
「お前も軍人だから、言うまでもないと思うけれど。あんまり動くと、首が絞まるよ。息が詰まりたくなければ、この場所を動かないことだね。パパはお前の体が心配だから。動かないことを祈っているよ」
そう冷たく言って。
後ろ手に拘束され、上半身だけは禁欲的に軍服を着たままで、下半身を淫らに曝け出しているシンタローを、一瞥すると。
マジックは、ベッドを降りて、悠然と扉に向かって歩き出したと思ったのに。
「ああ、忘れていた。パパだけ食べるっていうのも不公平だね。お前にも、その間……」
「やっ……もう、やめ……やぁっ……あ、ああああっ……」
くるりと振り向いて、金髪の男は。
ベッドに近付き、そっとシンタローの震える顎に手を添えて。
その唇に、触れるだけの口付けを落としながら。
「噛んじゃ駄目だよ。ちゃんと私が戻ってくるまでの間、いい子でこれを大事に舐めてしゃぶっているんだ。いいね、ちゃんと上手に舐めたか、あとで検査するから」
三本目の青いアイスキャンディーを、シンタローの淡い色にひくつくその場所に、捻じ込んだ。
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